事業承継に使える組織再編②|「事業譲渡」を税理士が解説。

事業承継と組織再編は切っても切り離せない関係にあります。

ありのままの会社の状態でそのまま譲渡先に事業や会社を売却できるとは限りません。

Junichi税理士

買い手からするとA事業は買いたいけどB事業はいらない。

逆に売り手からすると事業単位で切り売りしたくない。

通常M&Aにおいては、買い手と売り手のニーズにギャップがあるのが一般的です。

買い手と売り手のニーズのギャップを埋めるために、組織再編の利用を是非検討しましょう。

組織再編というとすぐに相続税対策が思い浮かびますが、昨今では、事業承継対策(主に第三者や従業員に対する売却)として注目が集まります。

具体的な中身に入る前に、組織再編ってどんな種類があるの?というところから確認したい方は以下の記事を参考にしてください。

事業承継に使える組織再編①|組織再編ってどんな種類があるの?

それでは、さっそく見ていきましょう。

Junichi税理士
事業譲渡は、売り手が有する資産及び負債を個別に買い手に譲渡する方法です。

したがって正確には、会社法における組織再編行為に該当しません。取引法上の行為と組織法上の行為とで大きくプロセスやメリット・デメリットが分かれる点に注意です。

ポイント
・原則株主総会の特別決議が必要(一定の要件を満たせば省略可能)
・債権者保護手続きが不要・対価が現金である場合がほとんど
・組織再編税制適用外で、時価課税

事業譲渡の概要

(1) 事業譲渡の定義

事業譲渡とは、事業譲渡会社の事業の一部、またはその全部を切り離し、事業譲受会社に移転する組織再編行為のことをいいます。法的には、以下のように定義されます。

事業譲渡とは、①一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産の全部又は重要な一部を譲渡し、②これによって譲渡会社がその財産によって営んでいた営業活動の全部又は重要な一部を譲受人に受け継がせ、③譲渡会社がその限度に応じ法律上当然に競業避止義務を負う結果を伴うもの(最大判昭和40年9月22日民集19巻6号1600頁)をいいます。

Junichi税理士
もう少し補足しましょう

①について、「営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する」という文言にあるように、譲渡する事業単位は、組織的で、それのみで機能するような事業単位でなければなりません。つまり、不動産などの固定資産の譲渡のみを行うような行為は、事業譲渡として該当しないこととなります。

②について、「営業活動の全部または重要な一部」という文言にあるように、譲渡する事業は事業譲渡会社の全部または重要な一部となります。事業の全部を譲渡するような場合であれば合併、重要な一部を譲渡するような場合であれば分割、といった他の組織再編行為に似た性質を持つことになります。

③について、事業譲渡を行った場合、事業譲渡会社は譲渡事業について競業避止義務を負うことになります。ただし、譲渡した事業に関する業務を営むことが、完全に禁止されるというわけではありません。例えば、事業譲渡会社の事業のうち、一部の地域における事業を事業譲受会社に譲渡した場合などは、事業譲渡会社は譲渡事業と競業する地域での営業を行うことはできませんが、その他の競業しない地域での営業まで、制限されるわけではありません。

(2) 事業譲渡には株主総会の決議が必要

一般に、事業譲渡を行うためには、事前に株主総会の決議が必要となります。ただし、事業の譲渡会社側と譲受会社側では株主総会が必要となる要件が異なります。以下では、それぞれのケースに応じて要件がどのように変化するのか、説明します。

(a) 事業を譲渡する会社の場合

事業を譲渡する会社の場合、事業の全部の譲渡であっても、事業の重要な一部の譲渡であっても、事業譲渡の効力が生じる日の前日までに、株主総会の承認を得なければなりません。また、ここでの承認は特別決議での承認が必要とされています。特別決議での承認とは、株主総会には株主の過半数が出席し、そのうち3分の2以上が賛成をしなければなりません。
このように、事業の譲渡は事業譲渡会社にとって重要な経営判断となるため、通常の株主総会決議に比べて、決議要件が厳しくなっているのです。

ただし、事業の重要な一部の譲渡のうち、譲渡する事業の帳簿価額が事業譲渡会社の総資産額の5分の1を超えない場合は、株主総会の承認は不要となっています。このような事業譲渡を、簡易事業譲渡といいます。

(b) 事業を譲り受ける会社の場合

事業を譲り受ける会社の場合、事業の全部の譲受けの場合のみ、株主総会の特別決議での承認が必要となります。事業の重要な一部の譲受けについては、事業譲渡会社のように株主総会の特別決議の承認が必要となっていない点が特徴的です。
また、たとえ事業の全部の譲受けであっても、譲り受ける事業が事業譲受会社の総資産の5分の1を超えない場合は、株主総会の特別決議での承認は不要となります。このような事業譲受を、簡易事業譲受といいます。

Junichi税理士
簡易事業譲渡・譲受けの要件にPLは入っていません。したがって全社の売上のうち90%を超える事業を売却する場合であっても総資産の1/5を超えなければ簡易事業譲渡・譲受けを行うことができます。

2. 事業譲渡のメリット・デメリット

次に、事業譲渡のメリットとデメリットについて、事業譲渡会社と事業譲受会社のそれぞれの立場から、説明していこうと思います。また、説明にあたっては、事業譲渡と似た組織再編行為である会社分割と比較しながら、説明していきます。

(1) 事業譲渡会社のメリット

事業譲渡会社のメリットとして、原則として事業譲渡の対価が現金等の金銭で受け取れることがあげられます。

会社分割の場合、事業譲渡会社の受け取る対価は、事業譲受会社の株式となることが一般的です。事業を譲り受ける会社が上場会社であれば、いつでも売買可能な流通市場があるため、事業譲渡会社は必要に応じて、対価として受け取った株式を現金化することができます。

しかし実際には、事業譲受会社は非上場会社である場合がほとんどであり、そのような会社の株式は、すぐに現金化することが困難な場合が多いです。そのため、事業譲渡では対価を現金で受け取ることができるので、事業譲渡会社にとってはメリットとなるのです。

また、もうひとつのメリットとして、債権者保護手続が不要であるということがあげられます。

合併や会社分割の場合、会社の権利と義務を包括的に事業譲受会社が引き継ぐため、個々の債務について債権者の承諾を得る必要はないですが、その代わりに債権者保護手続を行う必要があります。債権者保護手続とは、具体的には①官報への公告および②債権者への個別の通知を行うこととなります。

一方で事業譲渡の場合、個々の資産および負債について譲渡する契約を結ぶため、債権者保護手続は必要となりません。そのため、比較的単純な事業譲渡のケースでは、手続きを短期間に行うことができるという場合もあります。ただし、債務を事業譲渡の移転対象とする場合には、債権者の承諾が必要となります。

(2) 事業譲渡会社のデメリット

事業譲渡会社のデメリットとして、譲渡資産または負債を時価で事業譲受会社に移転するため、譲渡益に対して課税されることがあげられます。

組織再編税制において、会社分割の場合に一定の要件を満たせば、適格組織再編として資産または負債を帳簿価額で事業譲受会社に移転することができます。この場合、仮に移転する資産に含み益がある状態であったとしても、帳簿価額で移転するため、事業譲渡会社において課税されることはありません。

しかし、事業譲渡は組織再編税制の対象外となっているため、事業譲渡会社の資産または負債を時価で事業譲受会社に移転することになるのです。そのため、事業譲渡の際に移転する資産から生じる含み益に対して課税されてしまい、適格組織再編のように課税の繰り延べができないため、事業譲渡会社にとってのデメリットとなってしまうのです。

(3) 事業譲受会社のメリット

事業譲受会社のメリットとして、簿外債務を引き継ぐリスクがないことがあげられます。
事業譲渡の場合、事業譲受会社は譲り受ける資産または負債については、個別に契約を結ぶことになります。一方で会社分割の場合、事業譲受会社は、移転する事業についての権利および義務を包括的に引き継ぐこととなります。包括的に引き継ぐとは、帳簿上に計上されている資産および負債に限らず、帳簿に計上されていない簿外の債務なども引き継ぐことを意味します。

例えば、他の債務についての保証を行っていたなどの偶発債務が簿外債務に当たります。会社分割では、事業を譲り受けたあとにこのような債務があることが発覚し、大きな損失の原因となることがあり得ます。
しかし、事業譲渡の場合は事業の権利と義務を包括的に引き継ぐことはせずに、資産および負債を個別に引き継ぐため、簿外債務を引き継ぐことはありません。

また、その他のメリットとして、一般的に事業譲渡の場合に株式を対価とすることは稀なため、事業譲受会社にとって新しい株主が増加しないこともあげられます。

(4) 事業譲受会社のデメリット

事業譲受会社のデメリットとして、事業を譲り受けるために多額の資金が必要となることが挙げられます。事業譲渡会社のメリットの裏返しとなってしまいますが、事業譲渡の場合、対価は金銭等であることが一般的です。

一方で株式分割の場合は、事業譲受会社の株式を対価としての譲受が可能であるため、金銭等が準備できない状態であっても、事業を引き継ぐことが可能となります。しかし、事業譲渡の場合は金銭等が対価となる場合がほとんどであるため、事業譲受会社は対価となる額を準備しなければなりません。そのため、事業譲受会社にとってはデメリットとなるのです。

また、その他のデメリットとして、不動産登記や不動産取得税の軽減がないというデメリットもあります。
これは合併との比較となりますが、合併による不動産の権利の移転の場合、軽減税率が認められています。不動産の所有権の移転については、通常は固定資産税評価額に1,000分の20を乗じた金額ですが、合併の場合は1,000分の4を乗じた金額とされています。また、不動産取得税についても、合併または一定の要件を満たす会社分割の場合、非課税とされています。事業譲渡の場合、このような恩恵を受けることはできません。

(5) 共通のデメリット

事業譲渡会社と事業譲受会社に共通するデメリットとして、事業譲渡は消費税の課税対象となることがあげられます。合併や会社分割の場合、消費税は課税の対象外となりますが、事業譲渡の場合は課税対象となります。

その結果として、事業譲渡の譲渡資産の中に不動産が含まれている場合、事業譲渡会社における課税売上割合が減少し、仕入税額控除が小さくなる可能性があります。また、事業譲受会社においては、事業の譲り受けに伴って支払った消費税に対して、十分に仕入税額控除を認識できるかも問題となります。

事業譲渡のケース例

最後に、最近行われた事業譲渡の中から、知名度の高い企業による事業譲渡の例を2つご紹介します。

(1) 株式会社スタートトゥデイのケース

まず始めは、譲渡会社の例をご紹介します。ご存知の方も多いと思いますが、株式会社スタートトゥデイ(以下、「スタートトゥデイ」という。)は、ZOZOTOWNを運営する会社として有名です。

スタートトゥデイは、ZOZOTOWN以外にも、「STORES.jp」というサイトでEC事業を運営していましたが、このSTORES.jp事業を譲渡事業として、平成28年9月30日に事業譲渡を行いました。譲渡対価は、全額現金等の財産となっています。

この事業譲渡は、マネジメント・バイアウト(MBO)方式をとっており、譲受側がマネジメントであることが特徴的です。補足すると、MBOとは会社の役員等(マネジメント)が、会社の事業を買い取るスキームをいいます。

(2) キューピー株式会社のケース

次に、譲受会社の例をご紹介します。キューピー株式会社(以下、「キューピー」という。)は、マヨネーズでお馴染みの会社です。

キューピーは、ポーランドの調味料製造会社であるMosso Kwasniewscy Sp.J.から、マヨネーズなどの調味料を中心とした製造・販売を行う事業を平成29年1月12日に事業譲受をしました。こちらも譲渡対価は、全額現金となっています。

この事業譲受は、東欧地域でのブランド力、製造拠点および販売チャネルを獲得することで、東欧での展開を加速する目的で行われました。また、キューピーの例では、キューピーの日本法人が直接的に事業の譲受会社とはならずに、ポーランドの100%子会社であるMosso Kewpie Poland Sp. Z. o. o.が受け皿となり、事業の譲受をしている点が特徴的といえます。

ABOUTこの記事をかいた人

東京都で働く公認会計士・税理士です。祖父・父親・叔父・弟も公認会計士や税理士の不思議な家系です。移転価格・組織再編・タックスヘイブンに強みがあります。ついついブログの投稿とダイエットは3日坊主です(笑)