紀州のドンファン。愛人や妻に対する手当は脱税?贈与?給与?

“紀州のドン・ファン”こと和歌山県田辺市の実業家・野崎幸助氏(享年77)が5月24日に急性覚せい剤中毒により変死した事件が、騒がれ続けています。連日お茶の間のワイドショーでも取り上げられ、事件当時に現場にいた新妻(22歳)や家政婦に対する取材攻勢が続いています。

出会いは、野崎氏の著書「紀州のドン・ファン 野望篇 私が「生涯現役」でいられる理由」(講談社)によると、羽田空港で転んだ私を優しく助けてくれたとあります。

しかし最近の報道での新妻の説明によると、友人から、「おカネ持ちを紹介してくれる人がいる」と紹介されて出会い、「会ったその日にプロポーズされ、100万円わたされた」。野崎氏は「結婚したら毎月100万円わたす」と言って結婚を申し込み、「美味しい話だな」と思って結婚した、と話しています。

どうやらというか、想像通りというか、お金が絡んでの結婚だったということのようです。

報道によると過去にも同じように愛人を囲っていたようです。

「若い女好きは病気というか、もう生活の一部って感じですね。昔から、好みの背の高い若い女が貸金の事務所の前を通ると、走って声をかけに行く。100万円やるから付き合ってくれとか簡単に言います。寝てくれた女性に『金はやるから、領収書を書いてくれ』と言い、アルバイト代として会社の経費で落としたりとハチャメチャです。

出典:週刊朝日 野崎氏の経営する会社の古手の従業員による証言

そんな今回の事件。一億総探偵と化している事件の真相究明はさておき、愛人や妻に対するいわゆる手当の課税関係について解説していきます。

中小企業のオーナー社長には結構あるあるなケースではないでしょうか。

Junichi税理士
遊びはほどほどに

法人の課税関係

法人の課税関係ですが、大きくは愛人に対して支給する手当について、アルバイトや給与として支給している場合と役員報酬として支給している場合とがあります。

かくいう野崎氏も証言通りだとするとアルバイト代として経費に計上していたものと考えられます。

アルバイトや給与として支払っていた場合

アルバイトや給与として支払っていた場合、被雇用者としての勤務実態とその報酬の合理性があるかないかが大きなポイントになります。

なお、いわゆる社長の親族や愛人などは、一般的な用語として特殊関係人と呼ばれます。

法人税では、役員と特殊関係にある使用人(特殊関係使用人)に対して支給する給与については、その給与の額のうち不相当に高額と認められる部分の金額については、損金の額に算入しないという取扱いを設けています。

(特殊関係人)

①役員の親族

②役員と事実上婚姻関係と同様の関係にある者

③①及び②以外の者で役員から生計の支援を受けているもの

④②及び③の者と生計を一にするこれらの者の親族

なお、不相当に高額と認められるケースの判断基準は、一般には、次のように解釈されます。

(不相当に高額)

その使用人に対して支給した給与の額が、その使用人の職務の内容、その会社の収益、及び他の使用人に対する給与の支給の状況、その会社と同種同規模会社の使用人に対する給与の支給状況等に照らして相当かどうか。

勤怠表やタイムカードを見て、勤務実態がなければ一発アウトです。また仮に勤務実態があったとしても同種の業務に就く従業員の給与と比べて、著しく高い部分については、損金算入が認められないと考えられます。

今回のケースで新妻の方は、東京と和歌山のご自宅を往復する日々で勤務実態はないものと判断できます。

仮に毎月の100万円を給与して支給していた場合には、損金算入が否認されるでしょう。なお野崎氏のポケットマネーから支出していた場合には、法人との間で課税関係は生じません。

役員報酬としていた場合

勤務実態を見られるとマズイなら、役員にしてしまえばいいと考えませんでしたか?

役員報酬は給与と異なります。すなわち給与は役務提供の対価として支払われるものですので、役務提供の実態について問われると不利になります。一方で役員報酬は職制上の地位に基づく報酬であって役務提供の対価として発生するものではありません。したがって勤怠表やタイムカードがないという理由だけで、損金算入を否認することができない。この点に着目したわけですね。

実際に勤務実態が報酬とは紐づかないことを逆手にとって、愛人を給与ではなく役員として登記して役員報酬を支給しているケースは多々あります。

ただし、調子に乗っていっぱい手当をあげていると痛い目を見ます。

(法人税法第34条第2項)

内国法人がその役員に対して支給する給与(前項又は次項の規定の適用があるものを除く。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

この不相当に高額な部分の判定は、以下の項目を総合的に評価し認定します。

(評価項目)

・役員の職務の内容

・会社の収益状況

・従業員に対する給与の支給状況とのバランス

・同業や同規模の他社の役員報酬支給状況

実際に国税不服審判所の申し立て事例にも該当する案件がいくつかあります。

同族会社では、類似する業務に就く他の役員(親族外)の報酬がベンチマークとされた判決があります。

過大報酬の判定:国税不服審判所

このように役員報酬にしたからといって、課税を逃れられるわけではありません。

今回のケースで100万円を役員報酬として支給していた場合にも、職務内容や他の役員の報酬とを鑑みて損金算入が否認される公算が高いと考えます。なお野崎氏のポケットマネーから支出していた場合には、給与同様に課税関係は生じません。

妻や愛人の課税関係

これまで支払う側の野崎氏の立場から課税関係を確認していきました。

次にもらう側の妻や愛人の立場から課税関係を確認していきましょう。

妻の場合

妻の場合、夫婦間には「扶養義務」が生じていますので、「夫婦間の生活費」に該当するものであれば、贈与税は発生しません。なお、「通常必要と認められる」とは扶養者・被扶養者の資力などを考慮して、社会通念上適当と判断される範囲を言います。

逆にいうと、「夫婦間の生活費の範囲」を超えた金額については、贈与税の対象として認定され、妻に贈与税の申告義務が発生します。

この生活費の範囲の境目について国税庁は以下のように応えています。

(タックスアンサー 贈与税 No.4405 贈与税がかからない場合)

ここでいう生活費は、その人にとって通常の日常生活に必要な費用をいい、また、教育費とは、学費や教材費、文具費などをいいます。なお、贈与税がかからない財産は、生活費や教育費として必要な都度直接これらに充てるためのものに限られます。したがって、生活費や教育費の名目で贈与を受けた場合であっても、それを預金したり株式や不動産などの買入資金に充てている場合には贈与税がかかることになります。

出典:国税庁HP

Junichi税理士
そのまま貯金していた場合にも贈与税がかかる財産として認定されます。

なお贈与税は暦年課税で、その年に合計で110万円までは非課税枠ですので、税額は発生しません。

愛人の場合

次に愛人の場合です。愛人の場合は、妻と違って扶養義務がありません。したがって、その全額が贈与税の対象として認定されます。ただし、愛人業を事業として行っていると主張できるのであれば、事業所得として申告する余地が残されています。

事業所得として区分する要件としては、判例で以下のように示されています。

(判断基準)

①営利性・有償性の有無

②継続性・反復性の有無

③自己の危険と計算における事業遂行性の有無

④その取引に費やした精神的・肉体的労力の程度

⑤人的・物的設備の有無

⑥その取引の目的

⑦その者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点

を総合して、社会通念上事業といい得るか否かによって判断する

出典:最高裁判所昭和56年4月24日第二小法廷判決(昭和52年(行ツ)第12号所得税更正処分取消請求上告事件、以下「昭和56年最高裁判決」という。)及び平成11年10月15日裁決(名裁(所)平11第18号)

この点職業としてやっていると主張するからには、少なくとも「開業届け出」を税務署に提出し、愛人稼業をはじめてから毎年これに基づく確定申告を行い、愛人による収入で生計を立てていることを客観的に示せる外観がないと、抗弁に窮するでしょう。

通常は手当をもらって何もせずにそのままにしているケースが大半でしょうから、そうした場合にいざ調査が入って、「これは贈与ではなく事業所得だ」と抗弁するのは時すでに遅しです。

特殊関係人の調査

役員報酬や従業員の給与については、特殊関係人を中心に税務調査で必ずといっていいほど調査される項目です。

(参考記事)
税務調査で指摘されやすい項目を税理士が3つ選んでみた|法人税編

また愛人を特定するのには、例えば役員一覧や給与台帳から突出している対象者にあたりをつけることは容易です。

通常、特殊関係人への報酬が不相当な場合には、調べれば調べるほどボロが出てきます。変に偽装していたりすると、仮装隠ぺいを指摘され、重加算税の対象ともなりかねず、非常にリスクの高い行為です。

酒と女は切っても切り離せないと仰る経営者の方もいますが、少なくともビジネスとは切り離して考えるべきでしょう。

ABOUTこの記事をかいた人

東京都で働く公認会計士・税理士です。祖父・父親・叔父・弟も公認会計士や税理士の不思議な家系です。移転価格・組織再編・タックスヘイブンに強みがあります。ついついブログの投稿とダイエットは3日坊主です(笑)