事業承継に使える組織再編⑤「株式移転」を税理士が解説

株式移転の概要

株式移転とは

株式移転とは企業組織再編手法の一つであり、既存の法人が新たに設立する法人を完全親法人として、自社を完全子会社化するというスキームのことをいいます。会社法では、株式移転は次のように定義されています。

株式移転とは、一又は二以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいう(会社法第2条32号)。

条文の記載からもわかるように、株式移転を選択できる法人は株式会社のみとなります。したがって、合同会社や合名会社などの持分会社は、株式移転を行うことができません。また、「一又は二以上の株式会社」とあるように、株式移転は単独でも行うことができます。

株式移転は、完全親子会社関係を構築したい場合に選択される組織再編行為となります。同様の目的で選択される組織再編行為に、株式交換(株式会社が自社の発行している株式のすべてを、株式会社または合同会社に取得させる行為)がありますが、以下のような点で異なります。

(ア) 完全親法人は新規に設立する法人となる

株式交換は既存の会社同士が完全親子会社関係となるために行われましたが、株式移転の完全親法人は新規に設立される法人でなければなりません。つまり、株式交換も株式移転も完全親子会社関係を構築するための手法であることは共通ですが、完全親法人を既存の法人とするのか、もしくは新規に設立する法人とするのかという点で異なるのです。

また、株式交換の効力発生日は契約書で定めた日付でしたが、株式移転の場合は完全親法人を設立した日が効力発生日となります(会社法第774条2項)。

(イ) 合同会社は株式移転を行えない
株式交換でも完全子法人となることができるのは株式会社のみであり、株式移転と共通していますが、完全親法人には合同会社もなることができました。一方で、株式移転ではどちらも株式会社に限定されています。

合同会社も完全親法人として株式交換を行うことが認められていたという点で、株式移転と株式交換は異なっているといえます。

株式移転の税制

株式移転は組織再編行為の一種に該当するため、組織再編税制の中でどのように課税関係が発生するのかについて定められています。組織再編税制では、株式移転の際に一定の条件を満たした場合、課税上優遇されるようになっています。この一定の条件を満たした場合の株式移転を税制適格といい、満たさない場合を税制非適格といいます。

株式移転のうち税制非適格の場合については、完全子法人の株主は株式の譲渡時に、完全子法人の有する資産に対して時価評価が行われ課税されてしまいます。

例えば、完全子法人の保有する資産の含み損益に対して、評価損益を計上することとなるため、資産に含み益があるような場合だと、その含み益に対して税金が課されてしまいます。

一方で税制適格の場合、完全子法人の保有している資産を簿価のままで引き継ぐため、仮に資産に多額の含み益があったとしても、課税されることはありません。つまり、完全子法人の株主が株式を譲渡したとしても、譲渡益は発生せずに、課税も行われることがないのです。

具体的に、株式移転で税制適格を満たすためには以下の要件が定められています。

【税制適格要件】

① 金銭等不交付要件
② 従業者引継要件
③ 事業継続要件
④ 事業関連性要件
⑤ 事業規模要件又は特定役員引継要件
⑥ 株式継続保有要件
⑦ 完全親子関係継続要件

株式移転の際に、完全親法人と完全子法人の間に完全支配関係が成立していれば、税制適格に必要な要件は①のみとなります。完全支配関係とは、発行済株式又は出資のすべてを直接又は間接的に保有している状態のことをいいます。

また、支配関係にある場合、税制適格に必要な要件は①~③となります。支配関係とは、発行済株式又は出資の総数又は総額の半分を超える数又は金額を保有している状態のことをいいます。

最後に共同事業である場合は、税制適格に必要な要件は①~⑦の全てとなります。

株式移転のメリット・デメリット

次に株式移転のメリットとデメリットについて、それぞれ説明していきます。

(1) 株式移転のメリット

(ア) 買収資金が不要

株式移転では共同事業の形成などの場合、金銭等がなくとも完全子法人を取得できるというメリットがあげられます。株式移転では取得する完全子法人の株式の対価として、新規に設立する完全親法人の株式を発行して対価とすることが一般的であり、実質的にはキャッシュを準備する必要なくして、完全子法人を取得することができます。

そのため通常の買収などのように、株式を取得するための金銭等の用意が不要である点は、株式交換のメリットといえます。

(イ) 既存の法人の独立性が保たれる

数社が共同して株式移転を用いてホールディングス会社を設立し、新たな法人グループを作成した場合であっても、従来から存在していたそれぞれの会社は、組織再編後も継続して独立したまま存続します。

会社分割や合併では、組織再編前のそれぞれの組織の文化が違うため、組織再編後に互いの風土がうまく馴染まず、組織がうまく機能しないことも考えられます。そうすると、組織風土が統合するまで時間がかかってしまうこともあります。

その点、株式移転であれば完全子法人の独立性はグループ設立後も維持されるため、組織再編後もよりスピーディに経営を軌道に乗せることができます。

(ウ) 課税の繰延が可能である

完全子法人の株主のメリットとしては、税法適格要件を満たせば、資産の含み益に対する課税を繰り延べることができる点があげられます。先に説明したように、税制適格要件を満たした場合、完全子法人の資産に含み益があったとしても株式の譲渡時に完全子法人の資産を時価評価する必要がなくなり、含み益に対する課税を繰り延べることができます。

一方で事業譲渡などの方法をとった場合は、取引時に時価評価が行われ、株式の譲渡時に含み益に対して必ず課税が発生してしまいます。そのため、税法の適格要件があることは、株式移転のメリットとなるのです。

(2) 株式移転のデメリット

(ア) 完全親法人が非上場会社の場合、現金化が困難

完全子法人株主のデメリットとしては、完全親法人が非上場会社の場合、対価として受け取った株式の現金化が困難であることがあげられます。

完全親法人が上場会社の場合は、いつでも売却可能な市場があるため、株式を現金化することが容易であるといえます。しかし非上場会社の株式の場合は、上場株式のようにいつでも売買可能な流通市場が存在しないため、株式の換金性がとても低くなります。

そのため、完全親法人の株主が緊急で資金が必要になった場合でも、それに対応できなくなるなど、非上場株式を対価として受け取ることのデメリットがあります。

(イ) 完全親法人が上場会社の場合、価格変動リスクを伴う

株式移転の際に、対価として受け取った株式が上場株式の場合は、仮に株式交換後に完全親法人の株価が下がれば、その分、受け取った株式の資産性は失われてしまいます。

例えば上場会社と非上場会社が株式移転を行いグループ化した場合などに、従来非上場会社の株主であった人たちが、対価として上場株式を受け取る場合などがあります。このような場合、元非上場会社の株主は株価の市場変動のリスクを負わなければならないというデメリットがあるのです。

一方で株式移転後に組織再編がうまくいき、グループ全体の業績が上がった場合などは完全親法人の株価が上昇し、株主はその恩恵を受けることができることも考えられます。そのため、必ずしも損をするわけではありません。

株式移転のケース例

以下では最近行われた株式移転の具体例について、3ケースご紹介します。

(1) 技研ホールディングス株式会社のケース

最初に紹介するのは、会社が単独で(1社)行った株式移転のケースについてです。

技研興行株式会社(以下、「技研」といいます。)は、土木事業などを行う東証2部に上場している会社です。技研は、2018年1月に技研ホールディングス株式会社(以下、「技研HD」といいます。)を設立し、技研HDを完全親法人とする単独株式移転を行いました。

技研は今後のM&Aを見据えて技研HDを設立することで、意思決定機能を技研HDに集中し、将来的にグループ全体の経営判断を機動的に行うことを目的として、この株式移転を行っています。

単独で行う株式移転の場合、組織再編前後で株主構成が変わることはありませんが、技研のケースのようにグループのホールディングス化を行いたい場合などに、頻繁に利用されます。

(2) ヤマエ久野株式会社のケース

次に紹介するのは、複数の子会社同士で株式移転を行ったケースについてです。

ヤマエ久野株式会社(以下「ヤマエ」といいます。)は福岡に本社を置く、一般加工食品・冷凍食品・酒類等を仕入れ、弁当などの加工・製造を行い、コンビニや量販店などに販売を行っている会社です。

ヤマエは2017年2月に連結子会社である株式会社デリカフレンズ、持分法適用会社であった株式会社惣和、及び同様に持分法適用会社であった双葉産業株式会社の3社が完全子会社となる株式移転を行い、中間持株会社であるデリカSFホールディングス株式会社(以下、「デリカSF」といいます。)を設立しました。

株式移転の結果、完全子会社となった3社の従来の株主に対してはデリカSFの株式が交付され、ヤマエはデリカSFの60%を保有することとなりました。

このように、同種の事業を行っている子会社や関連会社を、株式移転を用いて中間ホールディングス会社を設立しまとめることで、各社の独立性を維持しつつも、経営についてはホールディングスで行うといった形で、効率的な経営を実施することができるのです。

(3) 伊藤ハム米久ホールディングス株式会社のケース

最後に紹介するのは、共同持株会社を設立したケースについてです。

伊藤ハム株式会社(以下、「伊藤ハム」といいます。)と米久株式会社(以下、「米久」といいます。)は、それぞれ別グループの法人でしたが、両者が株式移転を行い、それぞれを完全子法人とする持株会社である伊藤ハム米久ホールディングス株式会社(以下、「伊藤米久HD」といいます。)を設立しました。

この株式移転では、伊藤ハムの普通株式1株に対して伊藤米久HDの普通株式1株、米久の普通株式1株に対して伊藤米久HDの普通株式3.67株がそれぞれの株主に割当てられました。割当てられる株式の数は、一般的にそれぞれの完全子法人の企業価値の比率で決定されます。結果として、このケースでは伊藤ハムが取得企業で、米久が被取得企業となりました。

このように、従来は資本関係のない2社が株式移転を行うことで、グループとしては一体となりながらも、それぞれの独立性を維持しながら存続を続けることができるのです。

ABOUTこの記事をかいた人

東京都で働く公認会計士・税理士です。祖父・父親・叔父・弟も公認会計士や税理士の不思議な家系です。移転価格・組織再編・タックスヘイブンに強みがあります。ついついブログの投稿とダイエットは3日坊主です(笑)