文科省職員による770万円業務上横領(不正、資産の横領)スキームを解説。

平成30年7月30日の朝日新聞の報道によると、文部科学省の職員が770万円を業務上横領し懲戒免職処分になりました。

 

(概要)

文部科学省は30日、課長補佐級の40代の男性職員が京都教育大に出向していた際を中心に、学生の保護者から集めた約770万円を横領したとして、同日付で懲戒免職処分にした。

同省によると、この職員は2015年4月から18年3月まで同大に出向。学生の課外活動や海外留学の補助をするために保護者が納めた、教育後援会費を管理しており、15年10月ごろから今月上旬に発覚するまで横領を続けたという。このうち約46万円は、今年4月に文科省に異動後に横領していた。

職員は「引き継ぎ資料ができていない」として通帳などを後任に渡さなかったため、今月上旬に大学が口座の取引記録などを調べ、不正が発覚した。調査委員会を設置して本人に確認したところ、横領を認めたという。調査に対し職員は「スマホゲームの課金の支払いや、プレミアが付いた中古のプラモデルなどを買うのに使った。迷惑をかけて申し訳ない」と話したという。

出典:朝日新聞デジタル

文科省局長のご子息に関する医学部裏口入学疑惑だけでなく、文科省の不祥事が続いていますね。今回は、出向先の大学での業務上横領ということのようです。ニュース報道から不正のスキームと再発防止策についてまとめていきます。

不正のスキーム

不正というと、会計業界的には大きく2つに分かれます。一つが「資産の流用」、もう一つが「会計不正」です。会計不正については、東芝の不適切会計問題などで話題になったいわゆる「粉飾決算」ですね。

今回のケースは、「資産の流用」にあたります。上場会社など世間に与えるインパクトの大きさでいうと「会計不正」の方が大きいので、何となく「会計不正」の方が一般的な印象があります。

出典:日本公認会計士協会:経営研究調査会研究資料第5号「上場会社等における会計不正の動向」の公表について

しかしながら、日本企業の大半を占める非公開会社を含めた場合には、不正のうち「資産の流用」が大半を占めることになります。

Junichi税理士
非公開会社は株主からの業績に対するプレッシャーがありませんから、融資の必要性に迫られなければ粉飾決算を行う動機がありません。

今回この身近な「資産の流用」が行われたわけですが、どのようなスキームだったのでしょうか。

報道によると、教育後援費用を横領したとあり、被疑者は保護者から集めた資金を管理する立場にあったとされています。したがって、教育後援費用の口座から自分の口座に振り込み、帳簿上はこの資金移動について会計処理を行わない、ないしは架空の教育後援費用に関する支出として処理していたことが予想されます。

おそらく、当初は自分の私的な趣味(ゲームやプラモデル)に費やす少額の資金を同口座から引き出し、後で同額戻そうと考えてはじめたのでしょう。そこから同口座から引き出しても管理者が自分一人であるためバレることがないことに気づき、教育後援費用の口座から引き出すのが日常的になってしまい770万円もの金額に膨れ上がってしまったというのが真相だと思われます。

くわえて文部科学省から出向に来ている役人が、まさか不正を行っているとは大学側も夢にも思っていなかったでしょう。「資産の流用」はお金を扱う管理部門で発生することが多いですが、事件発覚後「まさかあの人が!」というのはお決まりです。社内で信頼されている人ほど、周りの牽制が効きませんから、不正が発覚しづらい状況になります。

これは笑い話になりませんが、とある不正調査の実際の現場で、不正実行者が土日に出勤して、関係書類の改ざんを日常的に行っていたことが発覚したケースがありました。不正実行者が土日によく出勤していることは社内の人間はみな知っていましたが、「土日まで会社のために一生懸命働いているんだ」と好感しか持たなかったそうです。これが仮に怪しい人だとどうでしょう。「土日にあいつはこそこそ何をやっているんだ」となるわけですね。

内部での信頼性は不正の実行しやすさに大きく関係してしまうのです。

再発防止

それでは今回のケースは、打つ手なしのやむを得ないケースだったのでしょうか。

この点報道によると、発覚したきっかけになったのは、文科省への異動です。引継ぎや通帳を渡すことを拒んだために、不審に思い調査した結果、発覚したとあります。

不正を行った職員としては、最初は「立て替え」くらいの軽い気持ちではじめたのでしょうから、異動した時に発覚しないよう関係書類を改竄するといった手の込んだことまで出来ていなかったのでしょう。

このように本人が管理している時には、バレなくても異動することで発覚するケースは多々あります。

昔にあった銀行員による「預金者の定期預金の横領」などは良い例です。支店の異動などで対象顧客の担当から外れると、預金者からの問い合わせ(定期預金ってどうなっていたっけ?など)で発覚することになります。

これを踏まえた再発防止策としては、まずローテーションが必要でしょう。ローテーションする人員が割けない場合にも少なからず、年度末には残高証明書を銀行から取り寄せ、出納担当者以外が照合するといった管理プロセスは必要不可欠です。

資産の保全をしっかりすることは、そこで働く従業員を守ることにも繋がります。もしこのような管理プロセスが敷かれていたら、軽い気持ちで「自分の趣味のために大学の口座からお金を抜く」ようなことはなかったと思います。

不正は、以下のトライアングルが揃った時に起こると言われています。

「動機」と「正当化」は不正を行う人間の資質に起因し、防ぎようがないケースがあります。ただしこうしたケースでも不正を実行する「機会」がなければ、不正は発生しません。したがって、機会を極力排除する「仕組みづくり=内部統制」が組織にとって重要になのです。

ABOUTこの記事をかいた人

東京都で働く公認会計士・税理士です。祖父・父親・叔父・弟も公認会計士や税理士の不思議な家系です。移転価格・組織再編・タックスヘイブンに強みがあります。ついついブログの投稿とダイエットは3日坊主です(笑)