相続財産60億円を一人占め?平尾昌晃氏を巡る遺産トラブルを税理士が解説。

「後妻が相続財産60億円を独り占めしようとしている。」

故平尾昌晃氏(享年79歳)を巡る遺産トラブルを、三男で歌手の平尾勇気氏(37)がメディアに訴え、注目を浴びています。相続問題については、昨今取り上げられるケースが多くなってきました。下世話なワイドショーネタとして見ている分には良いかもしれませんが、明日は我が身。いざ自分に降りかかって来たときには、笑っていられません。今回の事案を通じて抑えておきたい相続上のポイントを税理士が解説します。

事案の概要

本件について、相続人は以下のような相関であることを前提に話を進めていきます。配偶者であるM氏は30年以上被相続人のマネージャーとして務め、晩年に被相続人と婚姻しています。したがってM氏と三男を含む子供たちとの間に血縁関係はありません。

今回被相続人の相続財産の大半は、著作権収入と言われています。

JASRAC(日本音楽著作権協会)を含めた著作権収入は年間1億円で向こう50年権利があるようなので、著作権で60億円くらいの価値があると言われています。

この著作権収入について、M氏が単独の名義でJASRACに提出し、著作権収入を独り占めしようと画策していたなどが勇気氏の主張のようです。

著作権の相続税評価

そもそも著作権の相続税上の評価はどのように行うのでしょうか。少しテクニカルな話になるので、興味がない方は飛ばしてください。

著作権の財産評価は算式によって計算した方法によって評価を行います。

具体的には「年平均印税収入の額×0.5×評価倍率」で計算します。

年平均印税収入は課税時期の前年より前の三年間の印税収入を“年平均印税収入”として扱います。

次に評価倍率とは、課税時期後において、各年の印税収入が上で算出した“年平均印税収入”の額と同じものとして、著作物に精通した者の意見を基に推算をした印税収入を得られる期間に相当した複利年金原価率を言います。

この場合の複利年金現価率とは、毎年、一定期間支払われる金額の現在価値を複利計算で求めるもので、ある一定の期間継続的に収入の見込みがある権利などを評価するときなどに使用されます。

要するに年平均印税収入が過去実績をもとにしているので、これを将来キャッシュフローに置き換えるための補正計算を評価倍率を通じて行っていると考えると分かりやすいです。

【財産評価基本通達148】(著作権の評価)
著作権の価額は、著作者の別に一括して次の算式によって計算した金額によって評価する。ただし、個々の著作物に係る著作権について評価する場合には、その著作権ごとに次の算式によって計算した金額によって評価する。
(昭47直資3-16・平11課評2-12外改正)

年平均印税収入の額×0.5×評価倍率
上の算式中の「年平均印税収入の額」等は、次による。
(1) 年平均印税収入の額
 課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額の年平均額とする。ただし、個々の著作物に係る著作権について評価する場合には、その著作物に係る課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額の年平均額とする。

(2) 評価倍率
 課税時期後における各年の印税収入の額が「年平均印税収入の額」であるものとして、著作物に関し精通している者の意見等を基として推算したその印税収入期間に応ずる基準年利率による複利年金現価率とする。

遺産分割協議

本件の相続財産の大半を占める著作権の評価について説明してきました。次に著作権にその他土地・建物、現預金・株式、といった全ての相続財産をどのように分けるかといった点が問題になります。

これは、遺産分割協議において、個々の資産ごとに配分を相続人間で決めることになります。著作権や土地・建物については、資産管理会社に移しているようですので、資産管理会社の一株当たりの株価を算定した上で、資産管理会社の発行済み株式のうち、被相続人の保有していた株式を、誰に何株渡すかを決めることになります。

報道では著作権60億が切り出されて報道され、また三男の勇気氏も同じように誤解されているように思われる節がありますが、著作権そのものの帰属が問題になるのではなく、資産管理会社の株式を誰が何株相続するかが問題になります。

なお株価算定方法についても税法で細かく決められていますが、本稿の解説では割愛します。

遺産分割調停・審判による遺産の分割

相続人同士の遺産分割協議で、遺産分割について話しがまとまらない場合は、各相続人は、家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをすることが出来ます。

遺産分割調停では調停官・調停委員が相続人の間に入り、話し合いで遺産の分割内容を合意・決定させていく手続きをとります。合意した場合、調停調書を作成することになり、これには判決と同一の効力があります。

もし不成立になったら自動的に「審判」に移行しますので、改めて審判の申立てを行う必要はありませんので、調停から始められるケースもよくあります。

遺言

そもそも本件については、被相続人が遺言書で遺産分割の方法などを指定しておくべきだったと言えるでしょう。遺言書がある場合は、相続人は基本的に遺言書で指定された方法にしたがって遺産の分割を行うことになります。

なおこのとき、遺言書で「遺産は全部寄付する」などの遺言がなされて、自己の遺留分までもが侵害されている場合は、遺留分減殺請求をすれば最低限の相続分は取り戻すことができます。

相続税の申告期限

相続税の申告期限は、以下の国税庁の公表どおり相続開始から10か月以内に行う必要があります。本件では1年以上経過していますから相続税の申告期限を超過しているものと考えられます。したがって申告までの間、本来の相続税に加えて加算税や延滞税がかかってしまいます。

1 相続税の申告と納税は、相続又は遺贈により取得した財産(被相続人の死亡前3年以内に被相続人から贈与により取得した財産を含みます。)及び相続時精算課税の適用を受けて贈与により取得した財産の額の合計額が遺産に係る基礎控除額を超える場合に必要です。その遺産に係る基礎控除額の範囲内であれば申告も納税も必要ありません。

(注) 財産の額の合計額とは、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例及び特定計画山林についての相続税の課税価格の計算の特例を適用しない場合における課税価格の合計額をいいます。

2 相続税の申告は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行うことになっています。
例えば、1月6日に死亡した場合にはその年の11月6日が申告期限になります。なお、この期限が土曜日、日曜日、祝日などに当たるときは、これらの日の翌日が期限となります。申告期限までに申告をしなかった場合や、実際に取得した財産の額より少ない額で申告をした場合には、本来の税金のほかに加算税や延滞税がかかる場合がありますのでご注意ください。
相続税の申告書の提出先は、被相続人の死亡の時における住所が日本国内にある場合は、被相続人の住所地を所轄する税務署です。財産を取得した人の住所地を所轄する税務署ではありません。

3 相続税の納税は、上記の申告期限までに行うことになっています。
納税は税務署だけでなく金融機関や郵便局の窓口でもできます。
申告期限までに申告しても、税金を期限までに納めなかったときは利息にあたる延滞税がかかる場合がありますのでご注意ください。税金は金銭で一度に納めるのが原則ですが、相続税については、特別な納税方法として延納と物納制度があります。延納は何年かに分けて納めるもので、物納は相続などで取得した財産そのもので納めるものです。
なお、この延納、物納を希望する方は、申告書の提出期限までに税務署に申請書などを提出して許可を受ける必要があります。

(相法27、33、38、39、41、42、附則3、通法10、34、60、65、66、相基通27-3)

所感

本件はメディアを巻き込んだ大騒動に発展してしまいましたが、遺言書をきちんと作成していれば、何ら揉める余地なく済んだ話です。被相続人は「晩年を共に過ごしたM氏に財産を残したいと思っていたのか、それとも血のつながったかわいい子供たちに財産を残したいと思っていたのか、それとも自分の財産は全て寄付したいと思っていたのか」今となっては分かりません。

相続というとまず相続税を安くするためのテクニカルな対策に目が行きがちです。本件でも不動産や著作権を株式会社に帰属させていたという点は、法人税・所得税の問題だけではなく、少なからずその先の相続を見越した対応だったのではないかと思料します。

しかしながら肝心の「誰に資産を託したいのか」という被相続人の思いが欠落してしまったために、ここまで問題がこじれてしまいました。

残されたものが仲良く死後にわけてくれるとは限りません。自分の人生の総決算として遺言書は元気な内に取り組みたい問題です。

ABOUTこの記事をかいた人

東京都で働く公認会計士・税理士です。祖父・父親・叔父・弟も公認会計士や税理士の不思議な家系です。移転価格・組織再編・タックスヘイブンに強みがあります。ついついブログの投稿とダイエットは3日坊主です(笑)