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移転価格を知ろう|TNMMの適用誤り①
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事例
※現存する特定の企業を指したものではありません。実例をもとに弊所にて必要な加工修正を行っております。
日本の中堅自動車部品メーカーの下請けであるA社は、アジアを中心に海外に複数の拠点を設立(中国、ミャンマー)し、現地拠点では、主に日系及び外資系の自動車部品メーカーから、工場で使用する部品洗浄などの業務を請負っています。
自動車関連業界の市況の活況や部品洗浄技術の自動車関連産業以外の他産業への展開を通じ、近年事業は拡大しており、国際税務リスクがあると顧問税理士から指導を受け、移転価格の文書化プロジェクトを他の税理士法人に依頼しました。
従来同社の部品洗浄は、技術的な参入障壁は低いものの原料の配合や品質管理体制及びアフターサービスに独自の強みを有し、現地拠点に対して日本の技術移管に対する見返りとして、売上の1%をロイヤルティとして収受する契約を結んでいます。
海外市場の動向は、まずミャンマー市場は、市場規模が小さいことに加え(競合大手が進出するメリットがない)、ニッチな工程でかゆいところに手が届く質の高いローカル企業はなく、地道なルート営業を通じて日系企業を中心に取引先が増え、業績が拡大しています。
一方で中国市場においては、市場の大きさに比例して競合他社も多く、低価格路線で勝負するローカル企業と比較され、厳しい戦いを強いられています。
こうした中、移転価格コンサルタントから日本とのミャンマーとのロイヤルティが問題視され、このままでは移転価格上問題があり、ロイヤルティ料率を10%にあげるべきだと説明を受けました。
税務リスクを理由として現地ミャンマー社長にロイヤルティ率の値上げを納得させることは難しく、どう対応すればいいか本社社長は頭を悩ませる結果となりました。
問題点
移転価格の文書化というと一般的に取引単位営業利益率法いわゆるTNMMを想定される方が多くいらっしゃいます。
TNMMは、取引単位ごとに国外関連取引の内、単純な機能及びリスクを負担する企業をテスト対象とし、同社の営業利益率を現地市場で同様の機能とリスクを負担する同業他社の営業利益率とを比較する手法です。
本件においては、日本で蓄積した技術を海外に展開しており、無形資産が日本に帰属しているとして、海外子会社側をテスト対象とすることが一般的でしょう。
例えば、
・中国子会社の営業利益率=4%
・同業他社(中国子会社)の営業利益率=2%~5%
・この場合、中国子会社の営業利益率は、同業他社の営業利益率の2%から5%の範囲内であり、問題なし。
TNMMは、比較対象取引(企業)の適用要件が他の手法と比べて比較的緩やかであり、大手税理士法人を中心に、TNMMの適用を前提としたテンプレート化が主流になっています。
実際に多くの企業でTNMMが採用されており、本件においても移転価格コンサルタントは、TNMMを用いて移転価格を算定したものと考えられます。
出典:国税庁公表資料より抜粋
一方でこうしたマニュアル化した対応が実情に合わないケースも現実の実務においては浮彫りになっており、本件もこれに該当します。
具体的に本件を通じて考えていただきたいのが、TNMMを適用した場合に比較対象取引の類似性が「緩やか」という点です。
「緩やか」というのは言い方を包み隠さずに言うと「ある程度適当」ということです。
本件の場合、ミャンマー市場においては、大手や競合が入らないニッチな市場を独占しているため、本来比較対象企業がないはずです(=エアポケットな市場)。
にも関わらず、似たような製品(例えば自動車部品メーカーなど括りを大きくする)や似たような市場(例えばASEAN市場など括りを大きくする)から比較対象企業を抽出し、TNMMを適用したと考えられます。
・ミャンマー子会社の営業利益率20%
・同業他社(中国子会社)の営業利益率=2%~5%
・この場合、ミャンマー子会社の営業利益率が2%から5%の範囲に収まるように、ロイヤルティ率を10%にあげる。
競合他社がいる市場と寡占市場とでは取れる利益率は通常大きく異なります。
本件取引が独立企業間価格として取引が認められないといった結論に納得できますか?
当然市場を独占している要因が日本に起因するのであれば(無形の技術やマーケットインタンジブルが超過収益を生んでいるなど)結論として正しいです。
しかしながら、単純にエアーポケットな現地市場に起因して利益率が高い場合には、ローカル企業の営業利益率が高いのは当たり前です。
よくある適用誤りとして、無形資産取引で日本側が収受すべきロイヤルティを、TNMMのレンジに合うように調整した結果、「10%のロイヤルティを取るべき」と結論づけたところ、数年後に競合他社も市場に参入して価格競争がはじまり、「TNMMのレンジに合うようにロイヤルティ率を中国市場と同様に1%に下げた」といったケースです。
これは外部マーケットの変化を、日本からの技術供与の対価として収受するロイヤルティに転嫁しています。
日本からの無形資産(技術)の価値が変わらないのであれば、ロイヤルティは変わらないはずであり(あくまで無形資産の価値に応じて変えるべき)、間違った移転価格上の対応と言わざるを得ません。
本件ミャンマー市場においても、最初から取るべきロイヤルティは一貫して1%であったと考える方が自然ではないでしょうか。
「小さな池(=市場)の大きな鯉(=独占企業)」はその高収益の源泉が本当に日本側の貢献(技術や営業支援)によるものであるかを慎重にまず見極める必要があるのです。
あるべき対応
では、この場合どのように文書化対応すればいいのでしょうか?
残念ながら移転価格対応の肝にあたる部分ですので外部公表しておりませんが、対応策は十分に残されています。
税理士法人から「移転価格はこういう税制の仕組みなのだから仕方ないんだ」と説得され、ロイヤルティ率を上げたり価格調整金を用いて、海外子会社の営業利益率を一定のレンジに収まるように提案を受けていませんか?
こうした事案では、海外子会社からの反発は必至であり(合理性がないのだから当たり前ですね)、頭を抱えた本社管理部署から弊所にお問い合わせを頂く典型的なケースです。
移転価格はこのように個社の事情に応じてカスタマイズが必要な局面が多く、そのカスタマイズに必要な情報は条文や規定にどこにも書いていません。
したがって、真にプロフェッショナルが求められる領域です。
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