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移転価格を知ろう|TNMMの適用誤り④
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事例
※現存する特定の企業を指したものではありません。実例をもとに弊所で必要な加工・修正を行っております。
日本で飲食業を中央に事業を展開するA社は、近年海外での日本食ブームを背景としてアジア地域を中心に海外進出を進めています。
過去に売上除外を税務当局に指摘され多額の追徴課税を受けた苦い経験からA社社長は税務コンプライアンスに敏感であり、国際税務リスクについても外部の移転価格コンサルタントを利用し、万全を期していました。
ところが、先日国税局から税務調査を受けた際に移転価格が問題視されました。
具体的にはフィリピンにあるA社の100%子会社であるB社との間で行われた無形資産取引(日本→フィリピンへの技術供与)について、厳密に計算すると独立企業間価格とは言えないとの指摘でした。
問題点
移転価格の文書化というと一般的に取引単位営業利益率法いわゆるTNMMを想定される方が多くいらっしゃいます。
TNMMは、比較対象取引(企業)の適用要件が他の手法と比べて比較的緩やかであり、大手税理士法人を中心に、TNMMの適用を前提としたテンプレート化が主流になっています。
実際に多くの企業でTNMMが採用されており、本件においても移転価格コンサルタントは、TNMMを用いて移転価格を算定したものと考えられます。
出典:国税庁公表資料より抜粋
一方でこうしたマニュアル化した対応が実情に合わないケースも実務上浮彫りになっており、本件もこれに該当します。
具体的に本件を通じて考えていただきたいのが、TNMMを適用した場合、テスト対象とする企業の営業利益率をそのまま使用していないかです。
すなわちTNMMはあくまで取引単位営業利益率であって、会社単位営業利益率ではない点をよく考えなければなりません。
本件の場合、マネジメントインタビューを通じて、以下のような事実が浮かび上がりました。
判明した事実
飲食事業についてA社はB社に日本食に関するレシピや内装を含めた店づくりといった無形資産を供与し、B社はその見返りとして売上の1%をロイヤルティとしてA社に支払う契約を結んでいました。
一方B社は飲食業の他に現地で不動産事業を展開しており、主に日系企業のクライアントに対して宿泊施設や飲食の提供を行っていました。
B社の移転価格の算定方法は、B社全体の営業利益率を比較対象企業の営業利益率と比較して算定しています。
ところがB社の不動産事業は、近年中国や韓国企業に押され低価格での宿泊施設の提供を余儀なくされたことに加え、現地の労働者の賃金上昇が重なり、ここ数年ずっと赤字が続いていることが判明しました。
B社の営業利益率は、国外関連取引がない不動産事業が押し下げており、飲食事業を切り出した営業利益率は、比較対象企業の営業利益率のレンジよりも遥かに高いことが判明しました。
解説
本件は、日本での事業が飲食業しか行っていないことから、安易に海外子会社が行っている不動産事業を軽視してしまっています。
結果として、B社全体の営業利益率を比較対象企業の営業利益率のレンジに収まっているかをテストしたことにより誤った結論が導かれました。
実際の実務では詳しく確認すると、海外子会社が独自に行っている事業があり、会社単位の営業利益率と事業別の営業利益率とが大きく乖離している場合があります。
些細な違いが大きな結果の違いとなって現れるのが移転価格のこわさです。
会社とのインタビューにあたっては、「思わぬ落とし穴」がないかを十分な時間をかけて慎重に検討する必要があります。
移転価格はこのように個社の事情に応じてカスタマイズが必要な局面が多く、そのカスタマイズに必要な情報は条文や規定にどこにも書いていません。
したがって、真にプロフェッショナルが求められる領域であり、その解決策は千差万別です。
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