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移転価格を知ろう|TNMMの適用誤り③
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事例
※現存する特定の企業を指したものではありません。実例をもとに弊所で必要な加工・修正を行っております。
日本の老舗家具メーカーであるA社は、中国に海外子会社B社を有する準大手企業です。
8年ほど前に所轄税務署の税務調査を受け、その際に国内取引に関する指摘はなかったものの、国際税務に関しては取引規模が拡大してきており、次回以降の調査で詳しく見るかもしれないとの公表を受けました。
折しも当時は武田薬品やソニーなどの大手企業が国際税務に関して当局と揉めているニュースが続いており、3年ほど前に念のため税理士法人に文書化を委託しました。
A社と子会社であるB社との取引は、現地で製造できないコアパーツの輸出のみで、現地で組み立てて、中国市場で販売する商流になっています。
輸出取引についての営業利益率はベンチマークの範囲内であり問題ないとの報告書を受領し、A社社長は安心していました。
ところが、先日国税局から調査を受けた際に移転価格が問題視されました。具体的には比較対象企業として選定したC社に比較可能性がなく、これを除くと営業利益率のレンジが大きく下がり、したがって国外関連取引が独立企業間価格とは言えないとの指摘でした。
問題点
移転価格の文書化というと一般的に取引単位営業利益率法いわゆるTNMMを想定される方が多くいらっしゃいます。
TNMMは、比較対象取引(企業)の適用要件が他の手法と比べて比較的緩やかであり、大手税理士法人を中心に、TNMMの適用を前提としたテンプレート化が主流になっています。
実際に多くの企業でTNMMが採用されており、本件においても移転価格コンサルタントは、TNMMを用いて移転価格を算定したものと考えられます。
出典:国税庁公表資料より抜粋
一方でこうしたマニュアル化した対応が実情に合わないケースも実務上浮彫りになっており、本件もこれに該当します。
具体的に本件を通じて考えていただきたいのが、TNMMを適用した場合、比較対象企業から抽出した営業利益率のレンジが本当に妥当かという点です。
一般的にBureau Van Dijk社などのデータベースを使用して比較対象企業を抽出しますが、その絞り込みの過程が適切でないと、営業利益率のレンジが大きく変わってしまいます。
判明した事実
・A社からB社への輸出取引につき、切り出し損益で算定したB社の過去3年間の営業利益率は、15%~18%で推移していました。
・一方で独立企業間価格として抽出した営業利益率は、文書化したレポートによると7社を対象とし4分位を用いた結果4%~22%のレンジと算定されていました。
B社の営業利益率は、所定の範囲内であり一見問題ないように見えますが、よくよく確認すると非常にリスクの高い営業利益率のレンジの作り方になっています。
図の通り、対象とした比較対象企業の営業利益率の分布は、20%を超える営業利益率の会社が2社存在し、これが第3四分位として上限値を構成しています。
ここでC社を比較対象企業から除外すると、上限値はD社からE社に移り、営業利益率のレンジは4%~9%と大きく変わってしまいます。
このように営業利益率の分布が偏っている場合には、上位1社を狙いうちして調査を行い、比較可能性がない証拠を当局が重点的にかき集めて指摘するケースがあります。
本件ではC社は日本法人を有していましたから、日本法人に対する反面調査の名目でC社の内部資料をかき集めて、比較可能性がない証拠の収集が行われました。
解説
本件は、比較対象企業から作成した営業利益率のレンジが非常に偏っており、当局が崩しやすいレンジの作り方になっている点を移転価格コンサルタントは十分に理解できていませんでした。
四分位法は統計的に異常値が外かれるように算定しているので問題ないと考えてしまいがちですが、
数字のマジックで1社を含めるか含めないかで大きく変わってしまいます。
本件では、C社の営業利益率は42%と非常に高く、これを重点的に攻められると証拠が揃えばそろうほど苦しい展開に進むことが想像に難くありません。
では、本件の場合調査官の指摘に従い、修正申告に応じる以外に手はないのでしょうか。
もちろんB社との取引にかかる利益率がB社に所得が落ちるようになされているのであれば調査官の指摘に従うべきでしょう。
しかしながら所得隠しの意図はなく、適正な所得配分となるように取引価格を十分に検討し、第三者と取引してもこのような取引価格になると腹落ちしている場合には戦う余地は残されています。
税理士法人などから「移転価格はこういう税制の仕組みなのだから仕方ないんだ」と説得され、安易に修正申告に応じていませんか?
こうした数字のマジックが論点となる場合に、最終的に時間を重ねて議論を深めれば深めるほど取引の実態に沿した真実の営業利益率に近づいていくことがほとんどです。
移転価格はこのように個社の事情に応じてカスタマイズが必要な局面が多く、そのカスタマイズに必要な情報は条文や規定にどこにも書いていません。
したがって、真にプロフェッショナルが求められる領域であり、その解決策は千差万別です。
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