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2018.06.10
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事業承継に使える組織再編③「会社分割」を税理士が解説

事業承継に使える組織再編③「会社分割」を税理士が解説

事業承継と組織再編は切っても切り離せない関係にあります。

ありのままの会社の状態でそのまま譲渡先に事業や会社を売却できるとは限りません。

[speech_bubble type=”think” subtype=”R1″ icon=”image_share.png” name=”Junichi税理士”]

買い手からするとA事業は買いたいけどB事業はいらない。

逆に売り手からすると事業単位で切り売りしたくない。

通常M&Aにおいては、買い手と売り手のニーズにギャップがあるのが一般的です。[/speech_bubble]

買い手と売り手のニーズのギャップを埋めるために、組織再編の利用を是非検討しましょう。

組織再編というとすぐに相続税対策が思い浮かびますが、昨今では、事業承継対策(主に第三者や従業員に対する売却)として注目が集まります。

具体的な中身に入る前に、組織再編ってどんな種類があるの?というところから確認したい方は以下の記事を参考にしてください。

事業承継に使える組織再編①|組織再編ってどんな種類があるの?

それでは、さっそく見ていきましょう。

[speech_bubble type=”think” subtype=”R1″ icon=”image_share.png” name=”Junichi税理士”] 会社分割は事業譲渡との違いを意識すると理解が深まります。[/speech_bubble]

ポイント
・事業譲渡と比べ対価が柔軟。対価を株式とした場合、キャッシュレスでM&Aができる。
・適格合併要件を充足した場合、分割法人が有する含み益を繰延できる。
・包括承継であることから、労働者の引継ぎが事業譲渡に比べ簡素化。

Contents

会社分割の概要

会社分割とは、企業組織再編の手法の一つであり、会社が事業の一部を分割し、他の会社へ承継させることをいいます。会社法上、会社分割には吸収分割新設分割の二形態が定められています。

吸収分割とは、株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させることをいい(会社法第2条第29項)、新設分割とは、一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることをいいます(会社法第2条第30項)。

ここで注意すべきなのは、事業を分割する会社となることができるのは、株式会社と合同会社に限定されているという点です。一方で、事業の承継を受ける会社に関しては、合名会社や合資会社でもよいとされています。ただし、特例有限法人(旧有限会社)が事業を承継する会社となることはできません(会社法の施工に伴う関係法律の整備等に関する法律第37条)。

また、吸収分割と新設分割との違いは、吸収分割が既存の会社に対して事業を承継させるのに対して、新設分割は新設会社に対して事業を承継させるという違いがあります。さらに、吸収分割で事業を分割できる会社は一社に限定されているのに対して、新設分割では一社に限らず、二社以上の複数の会社が同時に事業を新設会社へ承継できるという違いもあります。

一般に、会社分割で事業を移転する会社のことを分割法人といい、事業の移転先となる法人のことを分割承継法人といいます。吸収分割であれ新設分割であれ、会社分割の結果、分割法人は事業を分割承継法人に移転し、対価として分割承継法人の株式を取得することが一般的です。この際に、分割法人は分割承継法人の株式を現物配当することができ、その場合は分割法人の株主が分割承継法人の株主ともなることができます。つまり、分割法人の株主が両法人の株主となるため、分割法人と分割承継法人が兄弟会社となります。税法上、このケースの会社分割を分割型分割といい、現物配当を行わない会社分割を分社型分割といいます(法人税法第2条12の9号、12の10号)。

組織再編行為に関する課税に関しては、組織再編税制で定められています。通常の組織再編行為として会社分割を行った場合、移転する資産・負債の承継する際の価額は、分割承継法人において時価評価が行われます。その際に、分割法人で移転される資産・負債の帳簿価額と、分割承継法人における時価評価額の差は、分割法人では譲渡損益として認識され、課税の対象となります。具体例として、分割法人において帳簿価額100万円の不動産があった場合に、これを分割承継法人に承継させたとします。仮にこの不動産の時価が300万円だった場合、分割承継法人は300万円で不動産を承継したとされ、分割法人は100万円の不動産を300万円で譲渡したとみなされます。結果として、分割法人では譲渡益200万円(時価:300万円-帳簿価額:100万円)が課税の対象となってしまうのです。税法上、このように承継する資産・負債を時価評価し、課税が発生するような場合を、税制非適格といいます。

ただし、一定の条件を満たした場合は、分割承継法人では承継する資産・負債を分割法人での帳簿価額と同額で受け入れることが認められています。この場合、分割法人において譲渡損益が発生しないため、課税もされません。税法上、このような場合を税制適格といいます。

会社分割においては、課税の繰り延べを行うため、税制適格要件を満たすことが重要になるのです。具体的には、以下のような条件を満たす必要があります。ただし、会社分割の際に、下記全ての要件が必ず必要というわけではなく、前提に応じて必要となる要件が変化します。

税制適格要件

  • 金銭等不交付要件
  • 主要資産等引継要件
  • 従業者引継要件
  • 事業継続要件
  • 事業関連性要件
  • 事業規模要件又は特定役員引継要件
  • 株式継続保有要件
  • 案分型要件(分割型分割の場合のみ)

会社分割の際に、分割法人と分割承継法人が完全支配関係にあれば、税制適格に必要な要件は①のみとなります。完全支配関係とは、発行済株式又は出資の全てを保有している状態のことをいいます。

また、支配関係にある場合、税制適格に必要な要件は①~④となります。支配関係とは、発行済株式又は出資の総数又は総額の半分を超える数又は金額を保有している状態のことをいいます。

最後に共同事業である場合は、税制適格に必要な要件は①~⑦の全てとなります。⑧案分型要件については、分割型分割の場合、支配関係や共同事業などに関係なく、必ず必要な要件となります。

会社分割のメリット・デメリット

次に、会社分割のメリットとデメリットを説明していきます。

買い手側(分割承継法人)のメリット

分割承継法人のメリットとして、現金がなくても承継することが可能ということが挙げられます。吸収分割の場合でも新設分割の場合でも、分割承継法人は分割会社に、承継する事業の対価として自社の株式を利用することができます。そのため、現金等を用意することができない場合でも、自社の株式を発行するか、または自己株式を対価とすることで、事業を承継することが可能となるのです。現金等を対価としないことは、税制適格を満たすための要件ともなっています(金銭等不交付要件)。

売り手側(分割会社)のメリット

分割会社側のメリットとして、税金上のメリットを享受することができることが挙げられます。会社分割の場合、一定の要件を満たせば税制適格となり、資産の含み益に課税が行われないためです。このメリットは、会社分割と似た制度である、事業譲渡の場合と比較すると分かりやすいです。

事業譲渡とは、①一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産の全部又は重要な一部を譲渡し、②これによって譲渡会社がその財産によって営んでいた営業活動の全部又は重要な一部を譲受人に受け継がせ、③譲渡会社がその限度に応じ法律上当然に競業避止義務を負う結果を伴うもの(最大判昭和40年9月22日民集19巻6号1600頁)をいいます。

事業譲渡をおこなった場合、原則として、事業譲渡法人は時価で資産・負債を事業譲受法人に譲渡することになります。結果として、事業譲渡法人では譲渡損益が認識され、課税の対象となってしまいます。

なお、完全支配関係にある国内の法人間での事業譲渡であれば、譲渡損益を繰り延べることができます。ただし、この場合でも譲渡損益を繰り延べることができる資産は限定されています。具体的には、固定資産、土地、有価証券、金銭債権および繰延資産で、譲渡直前の帳簿価額が1,000万円以上であるものとされています。そのため、仮に完全支配関係を満たす事業譲渡の場合であっても、会社分割の税制適格要件を満たした場合のように、全ての資産・負債を帳簿価額で引き継ぐことはできません。

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[speech_bubble type=”think” subtype=”R1″ icon=”image_share.png” name=”Junichi税理士”] 詳しくは、こちらもあわせてご確認ください。[/speech_bubble]

事業承継に使える組織再編②|「事業譲渡」を税理士が解説。

共通のメリット

分割法人、分割承継法人共通のメリットとして、会社分割は債務の移転および従業員の転籍の観点で手続が事業譲渡に比べて簡便的であることが挙げられます。

事業譲渡に際して、負債を譲渡の対象としない場合など、債務の移転が伴わないケースでは、債権者から見た場合の債務者に変更がないため、手続は不要となるのですが、債務の移転を行う場合は、債権者の同意が必要となります。一方で会社分割の場合、債権者から同意を得ることは不要となります。ただし、会社分割の場合でも、債権者保護手続は原則として必要となります。具体的に債権者保護手続とは、①官報への公告、および②債権者への個別の通知を行うことです。

従業員の転籍に関しても、会社分割は事業譲渡に比べ簡便的な手順になっています。事業譲渡の場合、移転する事業に従事する労働者と個別に交渉をする必要があります。ここでいう交渉とは、従業員から見た場合雇い主が変更となるため、そのことについて同意を得る必要があるのです。

一方で会社分割の場合、従業員と個別の交渉は必要ありません。なぜなら、会社分割では事業を包括的に引き継ぐことになるため、事業の従事する従業員も当然に含むためです。ただし、会社分割の場合も労働者保護手続は必要となります。具体的に労働者保護手続とは、移転後の法人での雇用条件について、従業員や労働組合と協議を行うことや、十分な理解ができるように通知を行う手続きのことをいいます。また、一定の場合には従業員は異議を申し立てることもできます。

買い手側(分割承継法人)のデメリット

分割承継法人のデメリットとしては、分割承継法人が簿外債務を引き継ぐおそれがあることが挙げられます。こちらも事業譲渡との比較になってしまうのですが、事業譲渡の場合、譲渡する資産及び負債は、自由に決定することができます。つまり、何を譲渡するかについて、個別に資産と負債を決定するのです。一方で、会社分割の場合、分割承継法人は移転する事業について、特定の資産及び負債に限定することはできず、事業を包括的に引き継ぎます。つまり、帳簿上認識されている資産と負債に限定されず、帳簿外の偶発債務が移転事業で発生した場合、その債務についても責めを負う可能性があるのです。

売り手側(分割法人)のデメリット

分割法人のデメリットとして、会社分割の対価を株式とした場合の、換金性の低さが挙げられます。会社分割において、多くの場合が分割承継法人は非上場会社であると考えられます。その場合、分割法人は非上場会社の株式を取得することになるため、簡単に売却することができません。上場会社の株式であれば、常に流動的な市場があるため売却も可能ですが、非上場会社の株式の場合はそのような市場がないためです。結果として、分割法人では会社分割後の現金の回収手段・必要性について、事前に計画しておく必要があります。

会社分割のケース例

以下では、最近行われた会社分割について、具体例を三つご紹介します。

  • 株式会社エイチ・アイ・エスのケース

株式会社エイチ・アイ・エス(以下、「H.I.S.」といいます。)は、平成29年にH.I.S.が日本国内で運営するホテル事業及び運営するホテル関係会社管理事業に関する権利義務の全てを、H.I.S.ホテルホールディングス株式会社(以下、「HHH」といいます。)へ承継する吸収分割を行いました。

HHHはH.I.S.が平成28年に、ホテル事業専業会社として設立した会社であり、HHHへH.I.S.のホテル関連事業を吸収させることで、社内のホテル事業の意思決定を一社に集中させ、意思決定の迅速化、事業活動の効率化をすることを目的としています。

このように、グループ企業内に関連性のある同種の事業が複数あった場合、吸収分割を行い一社にまとめることで、事業のスリム化を図ることができます。

 

  • 綜合警備保障株式会社のケース

次に、新設分割のケースをご紹介します。

綜合警備保障株式会社(以下、「ALSOK」といいます。)は、平成28年にALSOKの長野県でのサービスを行う事業を、新設法人であるALSOK長野株式会社に承継を行い、同時にALSOK長野株式会社の全株式を対価として受け取ることで、完全子会社としています。

このように、特定の地域で区切った事業の一部を分割することで、同様のサービスを提供する子会社を、エリアごとに設立することができるのです。

 

  • 株式会社ディー・エヌ・エー

最後に、これまでに紹介してきた会社分割と少し異なる会社分割についてご紹介します。

株式会社ディー・エヌ・エー(以下、「DeNA」といいます。)は、平成27年に事業の一部であった「DeNA BtoB market」事業を、新規に設立する法人である株式会社NETSEA(以下、「NETSEA」といいます。)に承継を行いました。通常の新設分割であれば、DeNAはNETSEAより事業承継の対価として、NETSEA株式を取得することになるはずです。しかし、このケースでは、NETSEAの株式の全てを株式会社オークファン(以下、オークファンとする。)に譲渡したのです。その結果、新設法人であるNETSEAはオークファンの子会社となりました。そして、DeNAは対価としてオークファンより、現金1,250百万円を受け取っています。

このように、新設分割を利用すれば、分割法人の事業の一部を、新規設立法人を利用して、第三者へ売却することも可能となるのです。

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