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事業承継に使える組織再編④「株式交換」を税理士が解説。
Contents
株式交換の概要
株式交換とは
株式交換は、企業組織再編手法の一つであり、株式会社が自社の発行している株式のすべてを、他の会社に取得させる行為をいいます。会社法では、株式交換は次のように定義されています。
株式交換とは、株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社又は合同会社に取得させることをいう(会社法第2条31号)
条文の記載からも分かる通り、株式交換を行うことができる法人は、株式会社と合同会社に限定されています。特に、株式を取得させることのできる法人は株式会社に限定されていますが、これは合同会社が株式を発行しないことをふまえれば、当然のことだといえます。また、株式を取得することのできる法人も、株式会社または合同会社に限定されており、その他の持分会社である合名会社や合資会社は、株式交換を行うことができないことに注意が必要です。
株式交換の取引内容については、『株式交換』という名称だけをみると、株式を取得させる際の対価も株式に限定されているかのように思えるのですが、必ずしも対価は株式である必要はありません。例えば株式を取得する際の対価としては、株式以外にも現金や社債などを利用することも可能です。また、対価は株式を取得させる法人の株主に対して支払われることとなります。
株式交換を行うと、ある法人が他の法人の株式の100%を取得することになるので、完全親子会社関係が完成することとなります。ここで、親会社となる法人を完全親法人、子会社となる法人を完全子法人といいます。
株式交換は、他社を買収する場合や経営統合を行う場合に選択されることもあれば、すでに50%以上の株式を保有しているような子会社を、完全子会社化したい場合などに選択されることもあります。このように、株式交換は完全親子会社関係を実現させたい場合に選択される組織再編手法となります。
株式交換の税制
株式交換は合併や会社分割と同様、組織再編行為の一種に該当するため、組織再編税制の中で、どのような課税関係が発生するのかについて定められています。
組織再編税制の中では、株式交換のうち、一定の条件を満たさない株式交換については、株式交換完全子法人の有する資産に対して、時価評価を行い課税されることが定められています。この一定の条件を満たした場合のことを税制適格といい、満たさない場合を税制非適格といいます。
税制適格の場合、完全子法人の保有している資産を簿価のままで引き継ぐため、仮に資産に多額の含み益があったとしても、課税されることはありません。しかし、税制非適格となった場合には、完全子法人の保有する資産の含み損益に対して、評価損益を計上することとなるため、資産に含み益があるような場合だと、その含み益に対して税金が課されてしまいます。具体的に、株式交換で税制適格を満たすためには以下の要件があります。
(税制適格要件)
① 金銭等不交付要件
② 従業者引継要件
③ 事業継続要件
④ 事業関連性要件
⑤ 事業規模要件又は特定役員引継要件
⑥ 株式継続保有要件
⑦ 完全親子関係継続要件
株式交換の際に、完全親法人と完全子法人の間に完全支配関係が成立していれば、税制適格に必要な要件は①のみとなります。完全支配関係とは、発行済株式又は出資のすべてを直接又は間接的に保有している状態のことをいいます。
また、支配関係にある場合、税制適格に必要な要件は①~③となります。支配関係とは、発行済株式又は出資の総数又は総額の半分を超える数又は金額を保有している状態のことをいいます。
最後に共同事業である場合は、税制適格に必要な要件は①~⑦の全てとなります
平成29年度税制改正の影響
上記の税制適格要件のうち、①金銭等不交付要件については、平成29年度税制改正において改正が行われています。具体的には、完全親法人が完全子法人の発行済株式総数の3分の2以上を保有している状態での株式交換の場合は、金銭等不交付要件を満たす必要がなくなりました。
従来、株式交換後に少数株主に支配力を与えたくない場合などに、対価として金銭等を選択した場合、税制非適格株式交換となり、保有する資産に含み益があれば課税がされてしまうという問題が生じていました。
しかし、平成29年税制改正の結果、今後は同様のケースでも税制適格株式交換として課税の繰延べができるようになったのです。
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株式交換のメリット・デメリット
次に、株式交換のメリットとデメリットを、完全親法人と完全子法人のそれぞれの視点から説明していきます。
完全親法人のメリット
完全親法人のメリットとして、金銭等がなくとも完全子法人を取得できるということがあげられます。取得する完全子法人の株式の対価として、金銭等を交付する場合は別ですが、完全親法人の株式を発行して対価とする場合は、完全親法人は実質的にはキャッシュの必要なくして、完全子法人を取得することができます。そのため、通常の買収などのように、株式を取得するための金銭等の用意が不要となる点は、株式交換のメリットといえます。
また、完全親法人が上場企業の場合などに限られますが、市場の調子がよく自社の株価が高値で取引されている場合であれば、完全子法人を割安で取得することが可能というメリットもあります。
株式交換で対価を株式とする場合、交換比率というものを定めて、対価となる株式の数を決定します。具体的には、完全子法人の株式1株に対して、完全親法人の株式2株を対価とする(交換比率は1:2)、などのように定めるのです。
ここで、完全子法人の1株の価格が1,000円だとします。仮に、完全親会社の1株の株価が500円だとすれば、完全子法人の株式を1株取得するために、対価として自社の株式を2株付与する必要があります。しかし、市場の調子がよく、株価が1,000円に上昇したとすれば、完全子法人の株式を1株取得するための対価は自社株1株となります。
このように市場の調子がよい場合、株式交換を選択することは、完全親法人にとってのメリットとなるのです。
完全親法人のデメリット
完全親法人のデメリットとしては、不採算事業や簿外債務も含めた完全子法人の全ての事業、資産および負債を引き継ぐ必要があることがあげられます。
株式交換は、完全子法人の全株式を取得し、完全子会社をすることになるので、採算の良い事業から不採算事業まで、そのすべてを引き受ける必要があります。その点、会社分割や事業譲渡の方法であれば、不採算事業などを除外して、好調な事業のみを引き継ぐことが可能です。
また、完全子法人に簿外債務があった場合も、仮に株式交換時に気づかなかったとしても、完全親法人は引き継がなければなりません。この点は、事業の権利および義務を包括的に引き継ぐ会社分割も同様ですが、事業譲渡の方法によれば、個別に引き継ぐ資産と負債を指定することができるため、簿外債務を引き継ぐおそれはありません。
このように、株式交換は完全子法人の悪い側面もすべて引き継がなければならないというデメリットがあります。
完全子法人のメリット
完全子法人のメリットとしては、税法適格要件を満たせば、資産の含み益に対する課税を繰り延べることができる点があげられます。先に説明した通り、一定の要件を満たした場合、完全子法人の資産に含み益があっても、時価評価する必要がなくなり、含み益に対する課税を繰り延べることができます。
この点、事業譲渡などの方法にした場合は、取引時に時価評価が行われ、含み益に対して必ず課税が発生してしまいます。そのため、税法の適格要件があることは、完全子法人のメリットとなるのです。
また、完全親法人が上場会社の場合に限りますが、株式交換後に完全親会社の株価が上昇すれば、完全子法人の株主もその恩恵を受けることができるというメリットがあります。株式交換の対価を株式とした場合、完全子会社の旧株主は、完全親法人の株式を対価として受け取ることになります。つまり、株式交換後は、完全親法人の株主の一員となるのです。
株式交換後、完全親会社と完全子会社の組織再編がうまくいき、グループ全体の業績が上がった場合などは、完全親会社の株価の上昇をもたらし、完全子会社の旧株主は、その恩恵を受けることができるのです。
完全子法人のデメリット
完全子法人のデメリットとしては、完全親法人が非上場会社の場合、対価として受け取った株式の現金化が困難であることがあげられます。
完全親法人が上場会社の場合は、いつでも売却可能な市場があるため、株式の換金について悩むことはありません。しかし、非上場会社の株式の場合は、上場株式のようないつでも売買可能な市場が存在しないため、株式の換金性がとても低くなります。そのため、対価として受け取る株式が非上場株式の場合は、事前にどのような方法で最終的に回収するかについて、事前に考慮しておく必要があります。
また、メリットの逆となりますが、対価として受け取った株式が上場株式の場合は、仮に株式交換後に完全親法人の株価が下がれば、その分、受け取った株式の資産性は失われてしまいます。このように、完全子法人の株主は、株価の市場変動のリスクを負わなければならないというデメリットも存在しています。
株式交換のケース例
最後に、最近行われた株式交換の具体的な事例について、三つご紹介します。
株式会社DTS
最初に紹介するのは、連結子会社を完全子会社とすることを目的とした株式交換のケースです。
株式会社DTS(以下、「DTS」といいます。)は、人事システムや会計システム、医療システムをパッケージとして販売・導入支援を行う会社です。DTSは平成29年5月に、自社を完全親法人とし、連結子会社であるデータリンクス株式会社(以下、「データリンクス」といいます。)を完全子法人とする株式交換を行いました。
この株式交換では、対価はすべてDTSの株式が用いられており、交付する株式については、DTSが保有する自己株式が充当されています。このように、交付する株式は必ずしも新規発行を行う必要はなく、自己株式を利用することもできるのです。また、データリンクスは上場企業であったため、株式交換に伴い上場廃止となっています。
株式会社リテールパートナーズ
次に紹介するのは、外部の非連結会社を株式交換の手法を用いて、完全子会社化するケースです。
株式会社リテールパートナーズ(以下、「リテールパートナーズ」といいます。)は、複数ブランドのスーパーを経営する小売業の会社です。
リテールパートナーズは、29年3月に株式交換の手法を用いて、株式会社マルキョウ(以下、「マルキョウ」といいます。)を完全子会社化しました。株式交換前のリテールパートナーズのマルキョウの議決権割合は10.2%であり、株式交換で89.2%の議決権を取得したこととなります。株式交換で取得したマルキョウ株式の対価の額は152億円であり、その全額をリテールパートナーズの株式を対価として交付しています。
対価となる株式は、一部自己株式で充当していますが、約9割は新株式を発行することで支払われています。このように多額の買収であっても、株式交換の方法によれば、現金流出をすることなく、子会社の取得が可能となるのです。
シンメンテホールディングス株式会社
最後に紹介するのは、完全子法人株式の対価として、株式以外を用いている場合のケースです。
シンメンテホールディングス株式会社(以下、「シンメンテ」といいます。)は、居酒屋チェーン向けに、店舗のメンテナンスサービスを行っている会社です。
シンメンテは平成29年9月に、自社を完全親法人、株式会社テスコ(以下、「テスコ」といいます。)を完全子法人とする株式交換を行いました。
シンメンテがテスコ株式を取得するための対価は、総額で14億円ほどですが、このうち6億円弱は現金を対価としています。残りの8億円は、シンメンテの自社株式を利用しています。
このように株式交換では、取得の対価として株式と現金などの両方を混ぜて用いることもできるのです。
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