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移転価格を知ろう|TNMMの適用誤り②
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事例
※現存する特定の企業を指したものではありません。実例をもとに弊所で必要な加工・修正を行っております。
日本の医療用検査機器の製造メーカーであるA社は、設立100年超の老舗企業であり、世界各地に拠点を有するグローバル企業です。
移転価格の文書化義務に伴い(いわゆるBEPS)、移転価格を含めた国際税務リスクの洗い出しを国内の税理士法人に委託したところ、欧州拠点であるドイツ子会社B社の営業利益率が高い点について移転価格上問題があり、B社から受け取るロイヤリティを最低でも5%にすべきとの報告書を受領しました。
B社は、1980年代に欧州市場での展開を目的として設立されたA社の100%子会社で、A社の技術移転や日系企業に対する営業サポートを通じて事業を発展させてきました。こうした経緯を踏まえ日本の技術移管に対する見返りとして、売上の3%をロイヤルティとして収受する契約を従来から締結し今日に至っています。
報告書に基づき、B社社長にロイヤリティ率の変更を打診したところ、B社は独自に現地で移転価格の文書化を現地の税理士法人に依頼しており、むしろドイツ当局に課税されるリスクがありロイヤルティを無くすべきだとの報告書を受領していると報告がありました。
相反する報告書を受領したA社は、どのように対応したらよいのか頭を抱える事態となりました。
問題点
移転価格の文書化というと一般的に取引単位営業利益法いわゆるTNMMを想定される方が多くいらっしゃいます。
TNMMは、比較対象取引(企業)の適用要件が他の手法と比べて比較的緩やかであり、大手税理士法人を中心に、TNMMの適用を前提としたテンプレート化が主流になっています。
実際に多くの企業でTNMMが採用されており、本件においても移転価格コンサルタントは、TNMMを用いて移転価格を算定したものと考えられます。
出典:国税庁公表資料より抜粋
一方でこうしたマニュアル化した対応が実情に合わないケースも実務上浮彫りになっており、本件もこれに該当します。
具体的に本件を通じて考えていただきたいのが、TNMMを適用した場合、より単純な機能とリスクを果たす企業と比較対象企業の営業利益率とを比較する点です。
すなわち無形資産取引(B社からA社に支払うロイヤルティ)があるからといって、海外子会社B社が果たす機能や負担するリスクが「本当に単純か」という点です。
本件の場合、B社マネジメントに対するインタビューやA社の製造・研究開発部門にインタビューを行ったところ、以下のような事実が浮かび上がりました。
判明した事実
B社への技術移転は1980年代に完了しており、以降はB社内で独自に改良を積み重ね、ドイツ内外でシナジー効果を有する企業をM&Aにより買収してきました。
1990年代以降自社での技術改良に伴い特許を継続して取得した結果、ひとつひとつの技術の価値は高くないものの、何十年にもわたる地道な特許の積み上げが「特許群」を形成し、今では参入障壁を形成するに至り、競合他社との差別化に繋がっています。
実際にA社の製造や研究開発部門の責任者にインタビューを行ったところ、B社の技術に関する詳細な事項は把握しておらず、あくまでB社の自主性に委ねているとのことでした。
販売についてもB社ブランドを選好する顧客は技術の進展とともに増加しており、欧州市場を中心にB社の機器を日系企業に販売する場合には、A社に販売してA社が現地の日系企業に転売するといった商流が存在することも判明しています。
解説
本件は無形資産取引に飛びついて(日本側のロイヤルティの収受)、その背景や現在の状況を十分にヒアリングすることなく、TNMMによりB社をテスト対象とした独立企業間価格を算定した結果、おかしな結論となっています。
本来であれば、日本からの技術移転はとうに陳腐化している点、ロイヤルティを収受し続けることについてドイツ側で課税されるリスクがあります。
また着目すべき国外関連取引は、B社からA社に販売する棚卸資産取引です。
棚卸資産取引に重要性があれば、日本をテスト対象とするTNMMを採用するのが妥当でしょう。
実際の実務では詳しく確認すると、海外子会社に特許(パテント)があり本来TNMMによる手法が適用できなかったり、日本側により単純な機能とリスクがあり、日本側をTNMMでテストすべき場合が往々にしてあります。
移転価格の算定手法を誤って選択し、ロイヤルティ率をむやみに変更しようとすると、海外子会社からの反発は必至です。
また税務のみならず肝心のビジネスの足枷になりかねません(合理性がないのだから当たり前ですね)。
頭を抱えた本社管理部署から弊所にお問い合わせを頂く典型的なケースです。
移転価格はこのように個社の事情に応じてカスタマイズが必要な局面が多く、そのカスタマイズに必要な情報は条文や規定にどこにも書いていません。
したがって、真にプロフェッショナルが求められる領域で、解決策は個々の企業ごとに千差万別です。
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